
不動産の相続放棄とは?手続き方法と注意点を徹底解説
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日本全国で増加し続ける空き家は、今や深刻な社会問題となっています。
親から相続した実家などが管理の行き届かない「負動産」となり、老朽化や固定資産税に頭を悩ませている方も少なくないでしょう。
このような状況を打開するため、国は「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除」、通称「空き家の3,000万円控除」という税制優遇制度を設けています。
この特例を活用すれば、空き家売却時に発生する税金を大幅に減らすことができます。
しかし、その適用要件は複雑で、知らずに損をしてしまうケースも後を絶ちません。
この記事では、空き家の3,000万円控除の基本から、具体的な適用要件、陥りがちな落とし穴、そして確定申告までの手続きを解説します。
あなたの空き家が特例の対象になるか、ぜひ最後まで読み進めて確認してください。
目次
まずは、この特例がどのような制度なのか、その目的と具体的な節税効果について見ていきましょう。
空き家の3,000万円控除は、相続または遺贈によって取得した空き家やその敷地を売却した際に、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度です。
この制度は、放置された空き家の流通を促し、使用目的のない空き家の発生を抑制することを目的としています。
では、実際にどれくらいの節税効果があるのでしょうか。
不動産を売却して得た利益(譲渡所得)には、所得税と住民税、復興特別所得税がかかります。
空き家の3,000万円控除制度は、譲渡所得から最大3,000万円差し引いた金額を課税譲渡所得金額とできるため、税額を大幅に減らせます。
例えば、相続した空き家を4,000万円で売却し、取得費が不明(概算取得費200万円)、譲渡費用が150万円、被相続人の所有期間が5年超のケースで見てみましょう。
| 項目 | 特例なしの場合 | 3000万円控除適用の場合 |
|---|---|---|
| 譲渡価額 | 4,000万円 | 4,000万円 |
| 取得費・譲渡費用 | 350万円 | 350万円 |
| 譲渡所得 | 3,650万円 | 3,650万円 |
| 特別控除額 | 0円 | 3,000万円 |
| 課税譲渡所得 | 3,650万円 | 650万円 |
| 税額(税率20.315%) | 約741万円 | 約132万円 |
| 節税額 | – | 約609万円 |
上記のように、この特例を適用するだけで約609万円もの税金が軽減されます。
このインパクトの大きさこそが、本制度が注目される最大の理由です。
空き家の3,000万円控除の特例を適用するためには、多岐にわたる要件をすべてクリアする必要があります。
一つでも満たせないと適用できないため、慎重に確認しましょう。
まず、売却する不動産そのものに関する主な要件は以下です。
2024年(令和6年)1月1日以降の譲渡から要件が緩和されており、売却のハードルが下がっています。
特に重要なのが、売却時の家屋の状態です。
以前は売主が解体するか耐震リフォームを済ませる必要がありましたが、令和6年の改正で買主が工事を行う場合も対象となりました。
| 制度 | 売主の対応 | 買主の対応 |
|---|---|---|
| 旧制度 (R5年12月31日以前) | ・家屋を解体して更地で売却 ・耐震リフォームを行い売却 | – |
| 新制度 (R6年1月1日以降) | ・家屋を解体して更地で売却 ・耐震リフォームを行い売却 ・現状のまま売却 | ・現状のまま売却された場合、譲渡の翌年2月15日までに耐震リフォームを行う ・現状のまま売却された場合、譲渡の翌年2月15日までに家屋を解体する |
この緩和により、売主は解体費用などの先行投資なしに売却活動を進められるようになり、特例活用の幅が大きく広がりました。
次に、亡くなった方(被相続人)と相続人に関する要件です。
被相続人の要件としては、相続開始の直前までその家屋に一人で居住していたことが大前提となります。
家族が同居していた場合は対象外です。
なお、被相続人が亡くなる前に老人ホームなどに入所していた場合でも、以下の要件を満たせば適用される可能性があります。
詳しくは国税庁のページもご確認ください。
相続人の要件としては、不動産の売却相手が親子や夫婦などの「特別な関係がある者」ではないことが定められています。
これは、身内間での名義変更による不当な節税を防ぐための規定です。
なお、相続人の数が3人以上である場合、控除額は2,000万円までとなります。
特例を適用するには、売却のタイミングと価格にも厳しい制限があります。
売却期間は、相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までと定められています。
例えば、2024年4月1日に相続が発生した場合、2027年12月31日までに売却しなければなりません。
相続発生から猶予はありますが、不動産売買には時間がかかるため、早期の行動が求められます。
また、売却価格は、1億円以下でなければなりません。
複数の相続人が共有で売却する場合、共有者全員の譲渡対価の合計額で判定されるため注意が必要です。
また、この特例制度自体にも期限があり、現在のところ令和9年12月31日までの譲渡が対象とされています。
ご自身のケースが特例の対象になるか、以下のチェックシートで確認してみましょう。
「いいえ」があれば、特例は適用できません。
すべて「はい」の方は、国税庁のページでも詳細を確認の上、手続きを進めましょう。
| チェック項目 | はい | いいえ |
|---|---|---|
| 【被相続人について】 | ||
| 被相続人から、相続や遺贈、死因贈与で家屋や敷地を取得しましたか? | ☐ | ☐ |
| 亡くなった親などが一人で住んでいましたか? | ☐ | ☐ |
| 【家屋について】 | ||
| 昭和56年5月31日以前に建てられた家屋ですか? | ☐ | ☐ |
| マンションなどの区分所有建物ではありませんか? | ☐ | ☐ |
| 相続してから売却まで、事業や賃貸、居住に使っていませんか? | ☐ | ☐ |
| 【売却について】 | ||
| 相続開始から3年目の年末までに売却しますか? | ☐ | ☐ |
| 売却価格は1億円以下ですか?(共有の場合は合計額) | ☐ | ☐ |
| 親子や夫婦など、特別な関係の相手への売却ではありませんか? | ☐ | ☐ |
| 【家屋の状態(いずれか1つが「はい」ならOK)】 | ||
| 耐震基準を満たす状態で売却しますか? | ☐ | ☐ |
| 家屋を解体して更地で売却しますか? | ☐ | ☐ |
| 買主が売却の翌年2月15日までに耐震改修または解体しますか? | ☐ | ☐ |
節税効果が大きい分、適用要件の解釈や手続きには細心の注意が必要です。
ここでは、特例が受けられなくなるNG事例や、他の制度との比較について解説します。
良かれと思った行動が、かえって特例の適用を妨げることがあります。
以下のような事例は、特例の趣旨である「放置された空き家の解消」から逸脱すると判断されるためです。
不動産売却に関する税金の特例は他にもあり、中にはどちらか1つを選択する必要がある場合もあります。
| 特例の名称 | 3000万円控除との併用 | 判断のポイント |
|---|---|---|
| 相続税の取得費加算の特例 | 選択適用 | 相続税を支払っており、譲渡所得が少ない場合は、取得費加算の方が有利なことがある。相続税額と譲渡所得額でシミュレーションが必要。 |
| 小規模宅地等の特例 | 併用可能 | 相続税申告時に小規模宅地等の特例を適用していても、譲渡所得税申告時に空き家特例を適用できる。 |
どの特例を選択すべきかは、個々の資産状況や税額によって大きく異なります。
誤った選択は数百万円の損失に繋がる可能性もあるため、必ず税理士などの専門家に相談し、最も有利な方法を選択することが重要です。
最大のミスは、確定申告を忘れることです。
この特例は自動で適用されるものではなく、すべての要件を満たしていても、売却の翌年に自分で確定申告をしなければ恩恵は受けられません。
たとえ控除によって税額がゼロになる場合でも、申告は必須です。
申告を怠ると、特例が適用されないだけでなく、本来納めるべき税額に対して無申告加算税や延滞税といったペナルティが課されます。
せっかくの節税機会を失うばかりか、余計な支出を強いられることになるため、期限内に必ず手続きを行いましょう。
特例を適用するためには、売却から確定申告までの一連の手続きを計画的に進める必要があります。
ここでは、具体的な流れと必要書類について解説します。
空き家売却のプロセスは、通常の不動産売却と大きくは変わりませんが、特例の適用を視野に入れた準備が重要です。
以下の過程と並行して、後述する確定申告に必要な書類の準備を進めておくことが、スムーズな手続きの鍵となります。
確定申告時に提出する書類の中で、最も重要かつ取得に時間がかかるのが「被相続人居住用家屋等確認書」です。
これは、売却した家屋が特例の要件を満たすことを市区町村が証明する公的な書類です。
この確認書は、空き家が所在する市区町村の役所で申請・取得します。
申請から交付まで1週間から2週間程度かかる場合があるため、早めに準備を始めましょう。
他にも、空き家の3,000万円控除には以下のような書類が必要となります。
自治体によって必要書類が異なる場合があるため、事前に必ず担当窓口に確認してください。
空き家の3,000万円控除を利用する場合、売却した年の翌年2月16日から3月15日までの間に、所轄の税務署へ確定申告を行います。
主な流れは以下の通りです。
書類に不備があると税務署から問い合わせがあり、手続きが遅れる原因になります。
事前に担当窓口に必要書類を確認した上で、漏れなく準備しましょう。
空き家の3,000万円控除は、相続した実家の売却に伴う税負担を劇的に軽減できる制度です。
しかし、その適用要件は複雑で、一時的な賃貸や自己使用といったNG事例や、他の特例との有利不利の判断など、専門的な知識がなければ適切な判断が難しい場面が数多く存在します。
大切な資産を守り、この特例の恩恵を最大限に受けるためには、自己判断は禁物です。
相続が発生したら、できるだけ早い段階で不動産会社などの専門家に相談し、最適な戦略を立てることをおすすめします。
訳あり不動産相談所では、相続した空き家の買取や控除適用のサポートを行っておりますので、お困りの方はぜひご相談ください。
この記事の担当者

担当者③