
共有名義の不動産が差し押さえられたら? 対処法や強制執行の影響を解説
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賃貸経営において、家賃滞納は避けて通れない問題の一つです。
滞納が続くとキャッシュフローが悪化し、経営そのものを圧迫しかねません。
多くの大家が「滞納者を強制的に退去させることはできるのか?」「どのような手順を踏めばいいのか?」といった疑問や不安を抱えていることでしょう。
結論から言うと、賃借人(借主)が家賃を滞納し続けている場合、一定の条件を満たせば強制退去は可能です。
しかし、これは簡単にできる手続きではなく、法的な手順を踏む必要があります。
本記事では、家賃滞納者を法的に「強制退去」させる方法について、正しい手順と注意点を詳しく解説します。
目次
家賃滞納が発生した場合、多くの大家はすぐにでも退去してほしいと考えるかもしれません。
しかし、日本の法律では入居者の居住権が強く保護されており、大家の判断だけで一方的に強制退去させることはできません。
法的な手続きを踏む前に、まずは段階的な初期対応から始めることが重要です。
賃借人が家賃を滞納した場合、いきなり法的手段に出るのではなく、まずは適切な初期対応を行いましょう。
この段階での丁寧な対応が、後のトラブル回避や円満解決につながることもあります。
家賃の支払いが確認できない場合、まずは電話や訪問で入居者に支払いを催促します。
単なるうっかり忘れの可能性もあるため、最初は穏やかに状況を確認しましょう。
それでも支払いに応じない、あるいは連絡が取れない場合は、次に支払いを催告する書面(催告書)を送付します。
書面には、滞納している家賃の金額、支払期日、振込先を明記し、「期日までに支払いがない場合は法的措置を検討する」旨を記載します。
この書面は、後の法的手続きで「督促した証拠」となるため、コピーを必ず保管しておきましょう。
電話や通常の書面による催告をしても支払いに応じない場合は、内容証明郵便を利用します。
内容証明郵便とは、「いつ、誰が、誰に、どのような内容の文書を送ったか」を郵便局が証明してくれるサービスです。
これにより、入居者に対して「支払いの催告をした」という事実を法的に証明できます。
この段階で、入居者に心理的なプレッシャーを与え、支払いを促す効果も期待できます。
内容証明郵便は、後の契約解除通知や訴訟において極めて重要な証拠となります。
入居者本人からの支払いが期待できない場合、次に連帯保証人に連絡を取ります。
連帯保証人は、入居者本人と同等の支払い義務を負っています。
そのため、大家は連帯保証人に対して滞納家賃の全額を請求することが可能です。
連絡する際は、滞納の事実と金額を正確に伝え、支払いを要請します。
連帯保証人からのプレッシャーによって、入居者が支払いに応じるケースも少なくありません。
強制退去は、単なる家賃の未払いだけでは認められません。
判例上、数ヶ月にわたる滞納や、信頼関係の破綻が確認される必要があります。
これらの条件が認定されて初めて、契約解除や退去請求が可能となります。
強制退去が認められるには、以下のような条件が重要です。
単なる1〜2ヶ月の滞納では、信頼関係の破綻とまでは認められない場合があります。
以下のような状況では、裁判で強制退去が認められないケースもあります。
あくまでも、悪質な滞納者に対して認められる最終手段であると理解しておく必要があります。
また、法的な手続きを誤ると、逆に大家が損害賠償を請求される可能性もあるため注意が必要です。
強制退去を実現するためには、裁判所の手続きを経る必要があります。
ここでは、一般的な流れを4段階に分けて紹介します。
まず、滞納している入居者に対し、「相当の期間(通常は1〜2週間)内に滞納家賃を支払わなければ、賃貸借契約を解除する」という旨を記載した「催告書」を内容証明郵便で送付します。
この通知は、入居者に最終的な支払い機会を与えると同時に、契約解除の正当性を担保するための重要な手続きです。
この段階で支払われれば問題は解決しますが、無視された場合は次のステップに進みます。
催告書で定めた期間を過ぎても支払いがない場合、改めて「賃貸借契約を解除する」という意思表示を記載した通知書を送付します。
この通知により、法的に賃貸借契約は終了します。
しかし、契約が解除されても入居者が退去しない場合は、不法占拠の状態となります。
この段階でも退去に応じない悪質なケースでは、法的な強制力をもって退去させるしかありません。
入居者が契約解除後も居座り続ける場合、大家は管轄の地方裁判所に「建物明渡請求訴訟」を提起します。
この訴訟は、建物の所有権に基づいて、不法に占有している入居者に対して明け渡しを求めるものです。
訴訟では、これまでの経緯を示す証拠(賃貸借契約書、家賃の入金記録、催告書など)を提出し、信頼関係の破壊と契約解除の正当性を主張します。
裁判で大家の主張が認められれば、裁判所から明け渡しを命じる判決が下されます。
裁判に勝訴し、判決が確定しても退去しない場合、裁判所に強制執行の申立てを行います。
執行官が立ち会い、物件からの強制退去が実施されます。
強制退去は、裁判所が任命した「執行官」が指揮を執り、法に基づいて実行されます。
大家や管理会社のスタッフが勝手に入居者の部屋に立ち入ったり、荷物を運び出したりすることは許されません。
あくまでも、建物明渡訴訟の勝訴判決という公的な「債務名義」と、裁判所の強制執行の許可があって初めて可能になる手続きです。
この点を誤解すると、大家側が住居侵入罪などの刑事罰に問われるリスクがあります。
強制執行の申立てが受理されると、まず執行官が現地を訪れ、入居者に対して自主的に退去するよう最終勧告(催告)を行います。
それでも退去しない場合、断行日(強制執行日)が決定されます。
断行日には、執行官の指揮のもと、鍵の解錠業者や荷物の運び出し業者が動員され、室内の家財道具一式が強制的に搬出・保管されます。
入居者本人が室内にいる場合は、執行官が退去を命じ、抵抗すれば警察官の助力を得ることもあります。
こうして物件は空の状態になり、大家に引き渡されます。
強制退去の手続きには、一定の時間と費用がかかります。
準備段階からスムーズに進めるには、あらかじめ目安を把握しておきましょう。
裁判提起から執行まで、通常半年から1年近くかかることが一般的です。
手続きの段階 | 所要期間の目安 |
---|---|
催告〜契約解除 | 約1ヶ月 |
建物明渡訴訟の提起〜判決 | 約3ヶ月〜6ヶ月 |
強制執行の申立て〜断行 | 約1ヶ月〜2ヶ月 |
合計 | 約5ヶ月〜9ヶ月以上 |
しかし、訴訟において入居者が争う姿勢を見せたり、手続きが複雑化したりした場合は、1年以上かかることも珍しくありません。
この間、家賃収入は途絶えたままになるため、大家にとっては大きな経済的負担となります。
強制退去を実現するためには、弁護士費用や裁判所への予納金など、様々な費用が発生します。
その総額は、50万円〜100万円以上になることもあります。
費用の種類 | 金額の目安 | 内容 |
---|---|---|
弁護士費用 | 30万円〜60万円程度 | 着手金、成功報酬など。事務所により異なる。 |
訴訟費用(実費) | 数万円程度 | 収入印紙代、郵便切手代など。 |
強制執行費用 | 20万円〜60万円程度 | 執行官への予納金、鍵業者・運搬業者の費用など。 |
合計 | 50万円〜100万円以上 |
特に強制執行費用は、室内の荷物の量によって大きく変動します。
荷物が多い、いわゆる「ゴミ屋敷」のような状態だと、搬出・保管費用がかさみ、100万円を超えてしまうケースもあります。
これらの費用は、原則として大家が一旦立て替える必要があります。
勝訴すれば滞納分の家賃や訴訟費用も請求可能ですが、現実は非常に厳しいと言わざるを得ません。
もともと家賃を支払えない経済状況の相手から、数十万円単位の費用を回収するのは極めて困難です。
給与の差し押さえなどの手段もありますが、相手が無職であったり、所在不明になったりすれば、回収は絶望的です。
そのため、強制退去にかかる費用は、多くの場合、大家の持ち出しとなり、回収できないリスクが高いと認識しておくべきです。
手続き通りに進めたとしても、実務上はさまざまなトラブルが想定されます。
かえって大家自身を不利な立場に追い込むリスクもあるため、慎重な対応が求められます。
建物明渡訴訟や強制執行をスムーズに進めるためには、客観的な証拠が何よりも重要です。
法的手続きに移行する可能性を常に念頭に置き、以下の書類をきちんと整理・保管しておきましょう。
これらの書類が揃っていることで、弁護士への相談や裁判所での主張がスムーズになり、手続きを有利に進めることができます。
法律を無視した制裁や物理的な行動は、かえって大家側が不利な立場に立たされる可能性があります。ここでは、大家として絶対に避けるべき行為と、その理由について詳しく解説します。
最も陥りがちな間違いが、入居者に無断で部屋の鍵を交換したり、室内の荷物を勝手に運び出したりする行為です。
たとえ家賃を滞納していても、賃貸借契約が法的に解除され、強制執行手続きが完了するまでは、入居者には部屋を使用する権利があります。
無断で鍵を交換すれば住居侵入罪や器物損壊罪、荷物を撤去すれば窃盗罪に問われる可能性があります。
上記のような、法的手続きによらずに自らの実力で権利を回復しようとする行為を「自力救済」と呼びます。
日本の法治国家においては、この自力救済は原則として禁止されています。
どんなに大家側に正当な理由があったとしても、権利の実現は裁判所などの公的機関を通じて行わなければなりません。
強制執行によって入居者を退去させた後も、室内に残された家財道具(残置物)の処理という問題が残ります。
これらの残置物は、法的にはまだ元入居者の所有物です。
そのため、大家が勝手に処分することはできません。正しい処理方法は、強制執行の手続きの中で、執行官の監督のもとで搬出し、一定期間倉庫などで保管することです。
保管期間を過ぎても元入居者が引き取りに来ない場合に、初めて売却や廃棄が可能になります。
この保管や処分にかかる費用も、前述の通り大家が一旦負担しなければならず、経営上の大きな負担となる場合があります。
事後対応だけでなく、日頃からトラブルを防ぐための予防策を講じておくことが肝心です。
ここでは、有効な3つの対策をご紹介します。
最も効果的な予防策の一つが、家賃保証会社の利用を義務付けることです。
家賃保証会社は、入居者が家賃を滞納した場合に、大家に代わって家賃を立て替えて支払ってくれます。
これにより、大家は安定した家賃収入を確保できるだけでなく、滞納者への督促業務からも解放されます。
保証会社が督促から法的手続きまで代行してくれるプランもあり、精神的・時間的負担を大幅に軽減できます。
入居審査の段階で保証会社の審査が入るため、支払い能力に不安のある入居者をスクリーニングする効果も期待できます。
家賃滞納が発生した際に、場当たり的に対応するのではなく、社内や大家自身の中で明確な対応マニュアルを整備しておくことが重要です。
例えば、「滞納発生後◯日以内に電話連絡」「◯日後には督促状を送付」「1ヶ月滞納で内容証明郵便を送付し、連帯保証人へ連絡」といったように、対応フローとスケジュールをルール化します。
これにより、対応の遅れや漏れを防ぎ、常に一貫性のある毅然とした態度で臨むことができます。
感情に左右されず、事務的かつ迅速に対応することが、問題の長期化を防ぐ上で効果的です。
家賃滞納は、専門的な知識が必要となる複雑な問題です。大家一人で抱え込まず、早い段階でプロに相談することが賢明です。
賃貸管理に実績のある管理会社に物件の管理を委託すれば、滞納発生時の督促から退去交渉まで、ノウハウを活かして対応してくれます。
また、問題がこじれそうな場合は、躊躇なく不動産問題に強い弁護士や司法書士などの法律専門家に相談しましょう。
法的な観点から最適な解決策を提案してくれるだけでなく、代理人として交渉や訴訟手続きを進めてくれるため、大家の負担は大きく軽減されます。
強制退去が長期化しても解決しない場合、物件自体の売却を検討するのも一つの手です。
強制退去は精神的な負担も大きいものです。
場合によっては、問題のある物件を抱え続けるよりも、売却して手放す方が賢明な選択となることもあります。
強制退去の手続きが長引けば長引くほど、大家が被る損害は増えていきます。
数ヶ月から1年以上にわたり家賃収入がゼロになるだけでなく、固定資産税や管理費などの支出は続きます。
さらに、弁護士費用や強制執行費用といった持ち出しも発生し、経済的な損失は数百万円に上ることも珍しくありません。
また、滞納者とのやり取りや先行きが見えない不安は、大きな精神的ストレスとなり、本業や私生活にまで影響を及ぼす可能性があります。
滞納者がいる状態の物件(オーナーチェンジ物件)を売却することには、いくつかのメリットがあります。
最大のメリットは、問題から解放され、すぐに現金を手にできることです。
面倒な法的手続きや滞納者との交渉から一切解放され、精神的なストレスもなくなります。
ただし、注意点もあります。
滞納者がいる物件は「訳あり物件」として扱われるため、通常の相場価格よりも安い価格での売却となることが一般的です。
しかし、強制退去にかかる費用や長期化による機会損失を考慮すれば、多少安くても早期に売却する方が、結果的に経済的合理性が高いと判断できるケースも少なくありません。
滞納者がいる物件を売却する場合、主な方法は2つあります。
一つは、一般の不動産仲介会社に依頼して、次の投資家を探してもらう方法です。
もう一つは、「訳あり不動産相談所」のように、訳あり物件を専門に扱う不動産買取業者に直接買い取ってもらう方法です。
買取業者の場合、仲介と違って買主を探す必要がないため、スピーディーに現金化できるのが大きなメリットです。
査定から数日〜数週間で売買契約が成立することもあります。
また、滞納者との交渉や立ち退き手続きも、買取業者が引き継いでくれる場合がほとんどです。
個人で悩みを抱える前にまずは相談してみるのがおすすめです。
家賃滞納者を法的に強制退去させることは可能ですが、かなりの期間と費用がかかることを覚悟しなければなりません。
家賃滞納問題で悩んだら、一人で抱え込まず、早期の段階で管理会社や弁護士などの専門家に相談することが大切です。
また、「なるべく手間をかけたくない」「早く問題を解決したい」という場合には、物件の売却も有効な選択肢の一つです。
「訳あり不動産相談所」では、このようなトラブルのある物件でも買取に対応しています。
まずは、お気軽にお問い合わせください。
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