COLUMN

競売物件の占有者は追い出せる?|引渡命令の手順と所有者が競売前にできること

競売物件を落札したものの、元の所有者や入居者が住み続けていて困っている方は少なくありません。

競売物件の占有者は、裁判所の「引渡命令」と「強制執行」という法的手続きを踏めば退去させられます。

一方で、落札者が勝手に鍵を替えたり荷物を運び出したりする行為は法律で禁止されています。

本記事では、競売物件の占有者を追い出す方法や手続きの流れ、費用・期間の目安、注意点をわかりやすく解説します。

競売物件の占有者とは?追い出しが必要になるケース

競売物件の占有者とは、落札後も物件に住み続けたり、荷物を置いたまま使用したりしている人のことです。

競売物件は裁判所が売却する不動産のため、一般の売買のように売主が引き渡しまで責任を持ってくれません。

占有者の退去は、落札者が自ら手続きを進める必要があります。

まずは占有者の種類と、追い出す際の基本ルールを確認しましょう。

占有者(せんゆうしゃ)
不動産を実際に使用・支配している人のことです。
所有者かどうかは関係なく、住んでいる人や荷物を置いて使っている人も占有者にあたります。
競売では、落札後も物件に残っている人を指して使われることが一般的です。

占有者の主な種類(元所有者・賃借人・不法占拠者)

競売物件の占有者は、大きく次の3種類に分けられます。

占有者の種類によって、追い出せるかどうかや手続きの進め方が変わります。

  • 元所有者(債務者)とその家族:住宅ローンの滞納などで競売にかけられた所有者が、落札後もそのまま住み続けているケースです。
  • 賃借人:元所有者から部屋や建物を借りている入居者です。抵当権が設定される前から借りているか、後から借りたかで扱いが大きく変わります。
  • 不法占拠者・権利のない第三者:元所有者の知人や、正当な契約なく住み着いている人などです。競売を妨害する目的で入り込んでいるケースもあります。

占有者がいても競売物件は入札・落札できる

競売物件は、占有者が住んでいる状態のままでも入札・落札できます。

入札前には、裁判所が公開する「3点セット」で占有者の有無や占有の状況を確認しておきましょう。

占有者がいる物件は明け渡しの手間や費用がかかる分、入札価格を慎重に検討する必要があります。

自力での追い出しは法律で禁止されている(自力救済の禁止)

落札して所有者になったとしても、占有者を自分の力だけで追い出すことは認められていません。

無断で鍵を交換する、荷物を運び出して処分する、電気や水道を止めるといった行為は「自力救済」にあたり、損害賠償を請求されるおそれがあります。

状況によっては住居侵入罪や器物損壊罪に問われる可能性もあるため、必ず話し合いか法的手続きで解決しましょう。

自力救済(じりききゅうさい)
権利を持つ人が、裁判所などの法的手続きを通さずに、自分の力で権利を実現しようとすることです。
日本の法律では原則として禁止されており、正当な所有者であっても違法と判断される場合があります。

競売物件の占有者を追い出す3つの方法

競売物件の占有者を退去させる方法は、「任意の明け渡し交渉」「引渡命令の申し立て」「強制執行」の3つです。

いきなり強制執行を目指すのではなく、まずは話し合いで解決を試み、応じてもらえない場合に法的手続きへ進むのが一般的な流れです。

話し合いによる任意の明け渡し交渉

最も費用と時間を抑えやすいのが、占有者との話し合いによる明け渡しです。

引越し費用や立退料を一部負担する条件を提示すると、占有者が退去に応じてくれるケースも少なくありません。

合意できた場合は、退去日や残置物の扱いを明記した「明渡合意書」を必ず書面で交わしておきましょう。

口約束だけでは、退去日を過ぎても居座られたり、残された荷物を処分できなかったりするトラブルにつながります。

裁判所への引渡命令の申し立て

話し合いに応じてもらえない場合は、裁判所に「引渡命令」を申し立てます。

引渡命令は、競売の落札者のために設けられた簡易な手続きで、通常の明渡請求訴訟よりも短期間・低コストで明け渡しを求められる点がメリットです。

元所有者や不法占拠者など、落札者に対抗できる権利を持たない占有者が対象になります。

引渡命令(ひきわたしめいれい)
民事執行法に基づき、競売の買受人の申し立てによって、執行裁判所が占有者に対して不動産の引き渡しを命じる決定です。
裁判を起こさずに強制執行の根拠(債務名義)を得られるため、競売物件の明け渡しで広く使われています。

強制執行による明け渡し

引渡命令が出ても占有者が退去しない場合は、強制執行を申し立てます。

強制執行では、裁判所の執行官が現地で占有者に退去を求め、最終的には占有者と荷物を物件から強制的に退去させます。

費用はかかりますが、法的に確実な明け渡しの方法です。

引渡命令から強制執行までの流れ

引渡命令から強制執行による明け渡しまでは、いくつかの段階を順番に進める必要があります。

特に引渡命令には申し立ての期限があるため、落札後は早めに動き出すことが大切です。

ここでは、代金納付から実際に占有者を退去させるまでの流れを、4つのステップに分けて解説します。

代金納付から6か月以内に引渡命令を申し立てる

引渡命令の申し立ては、落札代金を納付した日から6か月以内に行う必要があります。

占有者が後述する「建物明渡猶予制度」の対象となる賃借人の場合は、9か月以内です。

期限を過ぎると引渡命令は使えず、通常の明渡請求訴訟を起こさなければならないため、時間も費用も大きく増えてしまいます。

申し立てを受けた裁判所は、占有者の状況を確認したうえで引渡命令を出します。

引渡命令が占有者に届いてから1週間以内に不服申し立て(執行抗告)がなければ、引渡命令が確定します。

執行文の付与を受けて強制執行を申し立てる

引渡命令が確定しても占有者が退去しない場合は、裁判所で「執行文」の付与と「送達証明書」の発行を受けたうえで、執行官に強制執行を申し立てます。

申し立ての際には、執行にかかる費用の一部として予納金を納めます。

執行官による明渡しの催告

強制執行の申し立て後、執行官が現地を訪れて占有者に退去を求める「明渡しの催告」を行います。

催告では、原則として催告日から1か月後を引き渡しの期限と定め、物件内に期限などを記した公示書を貼り付けます。

催告の段階で観念して自主的に退去する占有者も多くいます。

断行日に占有者と荷物を退去させる

引き渡しの期限までに占有者が退去しない場合は、「断行」と呼ばれる強制的な明け渡しが行われます。

断行日には、執行官の指揮のもと執行補助業者が荷物を搬出し、鍵を交換して物件を落札者に引き渡します。

搬出した荷物は一定期間保管され、占有者が引き取らなければ売却や廃棄の手続きがとられます。

断行(だんこう)
明け渡しの強制執行のうち、執行官が実際に占有者を退去させ、荷物を運び出して物件を引き渡す最終段階の手続きです。
「明渡しの断行」とも呼ばれます。

占有者の追い出しにかかる費用と期間の目安

占有者の追い出しには、立退料や裁判所に納める予納金、荷物の搬出費用などがかかります。

中でも強制執行の費用は荷物の量や物件の広さで大きく変わり、想定より高額になるケースもあります。

入札価格を決める際や資金計画を立てる際の参考として、主な費用と期間の目安を確認しておきましょう。

立退料・引越し費用の相場

競売物件の占有者に対して、落札者が立退料を支払う法的な義務はありません。

ただし、強制執行にかかる費用や時間を考えると、引越し費用相当額を負担して自主的に退去してもらうほうが、結果的に安く早く済む場合があります。

金額に決まった相場はありませんが、引越し費用の実費から数十万円程度で交渉がまとまるケースが一般的です。

強制執行の費用(予納金・執行補助業者の費用)

強制執行で明け渡しを行う場合、主に次のような費用がかかります。

費用の項目目安
引渡命令の申立手数料収入印紙500円+郵便切手代
強制執行の予納金数万円程度(裁判所や物件の規模で異なる)
執行補助業者の費用(搬出・運搬・保管など)数十万円〜100万円以上
弁護士費用(依頼する場合)数十万円程度

執行補助業者の費用は、荷物の量や物件の広さ、搬出作業の難しさによって大きく変わります。

建物内に残置物が多かったり、いわゆるゴミ屋敷状態といわれる物件だったりする場合は、想定以上に費用がかさむ点に注意が必要です。

明け渡し完了までにかかる期間

任意の交渉で合意できれば、数週間から数か月で明け渡しが完了します。

引渡命令から強制執行まで進む場合は、申し立てから断行まで数か月程度かかるのが一般的です。

占有者が執行抗告などで争った場合や、物件内の荷物が多い場合は、さらに長引く可能性があります。

落札後すぐに入居や転売を予定している場合は、余裕を持ったスケジュールを組んでおきましょう。

競売物件の占有者を追い出す際の注意点

競売物件の占有者は、すべてが引渡命令で追い出せるわけではありません。

賃借人の中には、落札者に対して居住の権利を主張できる人もいます。

また、占有者が退去した後に残された荷物の扱いにもルールがあります。

抵当権より前から住む賃借人は追い出せない

競売物件の抵当権が設定されるよりも前から部屋を借りている賃借人は、落札者に対して賃借権を主張できます(対抗力がある状態)。

対抗力のある賃借人は引渡命令の対象にならず、落札者は元所有者の貸主としての立場を引き継ぐことになります。

貸主の立場を引き継ぐと、賃料を受け取れる一方で、敷金の返還義務なども引き継ぐ点に注意が必要です。

退去してもらうには、借地借家法のルールに沿って正当な理由を示し、通常の賃貸物件と同じように交渉を進めなければなりません。

対抗力(たいこうりょく)
自分の権利を、契約の当事者以外の第三者にも主張できる効力のことです。
賃借人の場合、建物の引き渡しを受けて住んでいれば、原則として後から登場した新しい所有者にも賃借権を主張できます。

建物明渡猶予制度で6か月待つ必要があるケース

抵当権が設定された後に部屋を借りた賃借人でも、競売手続きが始まる前から住んでいた場合は、「建物明渡猶予制度」によって、落札者が代金を納付した日から6か月間は退去を猶予されます。

猶予期間中、落札者は賃借人に対して家賃相当額の支払いを請求できます。

賃借人が支払わず、相当の期間を定めて1か月分以上の支払いを催告しても応じない場合は、猶予期間を待たずに明け渡しを求められます。

建物明渡猶予制度(たてものあけわたしゆうよせいど)
民法第395条に定められた制度で、抵当権に対抗できない建物の賃借人が、競売による買受けの時から6か月間は建物の明け渡しを猶予されるというものです。
突然の退去によって賃借人の生活が困窮するのを防ぐ目的があります。

残置物は勝手に処分できない

占有者が退去した後に家具や家電などが残っていても、落札者が勝手に処分することはできません。

残置物の所有権は占有者にあるため、無断で捨てると損害賠償を請求されるおそれがあります。

任意で退去してもらう場合は、明渡合意書に「残置物の所有権を放棄し、処分に異議を述べない」旨を盛り込んでおきましょう。

強制執行による場合は、執行官の手続きに沿って保管・売却などが行われます。

占有者がいる空き家を手放したい所有者が知っておきたいこと

ここまで落札者側の手続きを解説してきましたが、反対に「親族が住み着いている」「入居者が退去してくれない」など、占有者がいる空き家を手放したい所有者もいるでしょう。

占有者付きの物件は売却のハードルが高く、放置してローン滞納などから競売になると不利な条件で手放すことになります。

占有者付きの物件は一般の仲介では売れにくい

占有者がいる物件は、不動産会社の仲介で一般の買主に売り出しても、なかなか買い手が見つかりません。

買主から見ると、物件の中を内覧できない、購入後すぐに住めない、明け渡しの交渉や費用を自分で負担しなければならない、といったリスクがあるためです。

また、占有者付きの物件は金融機関の住宅ローン審査も通りにくく、購入できる人が現金で買える人に限られてしまいます。

競売になると相場より大幅に安く売却される

住宅ローンや税金の滞納が続くと、物件は債権者によって競売にかけられます。

競売では、裁判所が定める売却基準価額が市場価格より低めに設定されるうえ、占有者がいる物件はさらに入札価格が抑えられる傾向にあります。

売却価格が低いと、売却後もローンの残債が残ってしまう可能性があります。

所有者自身が売却の時期や価格を決められない点も、競売の大きなデメリットです。

占有者がいると無償譲渡(あげる)も難しい

売れないなら誰かにあげたい、と考える所有者もいますが、占有者がいる物件は無償でも引き取り手が見つかりにくいのが実情です。

受け取る側が、占有者との交渉や明け渡しの費用をすべて負担しなければならないためです。

相続した土地を国に引き取ってもらえる「相続土地国庫帰属制度」も、建物が建っている土地や、他人に使用されている土地は対象外です。

空き家バンクへの登録も、占有者がいる状態では難しいでしょう。

競売前なら任意売却や買取業者への売却で手放せる

競売になる前であれば、所有者の意思で売却方法を選べます。

住宅ローンの残債がある場合は、債権者の同意を得て市場で売却する「任意売却」によって、競売よりも高い価格で売れる可能性があります。

また、占有者付きの物件を専門に扱う買取業者であれば、占有者がいる状態のまま物件を買い取ってもらえます。

明け渡しの交渉を自分で行う必要がなく、早期に現金化できる点が大きなメリットです。

占有者がいる不動産の売却は訳あり不動産相談所へ

占有者がいる空き家や不動産の売却でお悩みなら、「訳あり不動産相談所」にご相談ください。

訳あり不動産相談所は、再建築不可物件や共有名義の不動産など、一般の不動産会社では扱いにくい物件の買取に特化したサービスです。

占有者がいる物件も、状況を丁寧にお伺いしたうえで買取を提案してくれます。

訳あり不動産相談所には、「占有者がいるために他の不動産会社で断られた」というご相談が多く寄せられています。

訳あり物件の買取に特化してきたノウハウを活かし、他社では難しいと判断された物件でも、買取の可能性を前向きに相談にのってくれるでしょう。

まとめ:占有者の追い出しは法的手続きで。所有者は競売前の売却も検討しよう

競売物件の占有者を追い出すには、まず話し合いによる任意の明け渡しを試み、応じてもらえない場合は引渡命令と強制執行という法的手続きを進めます。

自力での追い出しは法律で禁止されているため、必ず正しい手順を踏みましょう。

一方、占有者がいる空き家を手放したい所有者は、競売になる前に動くことが大切です。

占有者付きの物件は仲介では売れにくく、競売では相場より安く売却されてしまいます。

訳あり不動産相談所なら、占有者がいる状態のままでも買取相談が可能なので、他社で断られた物件も、ぜひ一度相談してみてください。

この記事の監修者

関連するコラム